2012年4月20日金曜日

Asahi.com :徹底討論「ジャーナリズムの復興をめざして」 - 朝日新聞社シンポジウム


Q:「シラミ」になるにはどうしたらよいか?

 村松 次は立花さんに質問ですが、権力者と新聞記者の関係、権力者とジャーナリストの関係、シラミの話が出ましたけれども、「シラミのようになるにはどうしたらいいんだろう」という、もうちょっと具体的なイメージが浮かぶようなお話がいただけないだろうか、こういう質問です。

立花隆氏

A:歴史を知ること――見事なシラミの実例を知る

 立花 それはちょっと難しい。ぱっとしたアドバイスはすぐに浮かびませんが、それはいろんな歴史を知ること、いろんな歴史というのは、例えばジャーナリズムの歴史であり、それから、リアルな歴史であり、その中で自分が学ぶべきことというのは、どういう分野にしろ、歴史を学ばなきゃ何にもわからないわけですね。だから、やっぱりジャーナリズムの歴史の中における見事なシラミの実例といいますか、そういう歴史を知ることが大事だと思うんですね。


何年と拳馬車経ちましたでした

 それで、これはある本、幾つかの本に書いてあることなんですが、僕は一連の角栄のことや何かをやった後に、外人記者クラブ(日本外国特派員協会)に呼ばれて、何かいろいろしゃべってくれということでしゃべった。その時に、外人記者クラブのその時の会長か何かが僕を紹介してくれるわけですね。それで、「この人が日本で一番有名なマックレイカーです」という表現をしたんですね。マックレイカーというのは、堆肥をかき回すスポークのついたフォーク状の、あれをマックレイカーと言うんです。

 要するに、堆肥のかき回し役という意味なんですね。いわゆるスキャンダルを暴くような仕事をするということをマックレイカーと言うんですが、実は歴史的に最も有名なマックレイカーという人がいまして、そもそもその人に対する批評としてマックレイカーという言葉が使われた。アメリカのロックフェラー大財閥がいかにしてできてきたかを詳細に書いた、有名なジャーナリスト(イーダ・ターベル1857〜1944)なんですが、その時、このロックフェラー側からごうごうたる非難を浴びせられ、それでその人をマックレイカーと、そういう批評をつけて呼んだわけですね。

 ところが、アメリカ・ジャーナリズムの歴史の中では、それが最も有名な表現になりまして、それ以後、マックレイカーというのはアメリカのジャーナリストに対する最も評価する言葉というか、そういうふうに変わったんだと。私が外人記者クラブで紹介を受けた後、その解説をしてくれた人がいまして、やっぱりマックレイキングがメディアの果たすべき役割の一つとして重要だと。


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 先ほどもありましたが、権力は暴走する傾向と同時に、必ず腐敗するんです。これはもう必ず起こる現象です。人類の長い歴史を見て、常にクリーンでい続けられた権力者っていないんです、必ず腐っているんです。

 その時に、腐りをちゃんとひっくり返して、その腐っているところを暴いて、逆に空気を入れて風通しをよくするという、そういう役割というのが必要なわけですね。それが基本的にはジャーナリズムが果たすべき非常に重要な役割の一つです。そのマックレイカー的な役割、それをただいま現在、この日本のメディアがちゃんと果たしているかというと、僕は必ずしも果たしていないと思うんですね。

 例えば福井(俊彦)日銀総裁の村上ファンドへの投資問題ですね。あの問題で、朝日はある時期すごくいい記事を書きました。でも、朝日が書いたあのネタもとというか、それは週刊誌の世界では、たしかその2週間か3週間前に既に出ている事実ですよね。実際に村上ファンドとの契約関係がどうでという、契約書そのものを週刊誌(「週刊現代」06年6月26発売号)が既に暴いて、その後の記事ですよね。

 だから、朝日新聞しか見ない人には、何か朝日はすごいじゃないかみたいな感じを受けるけれども、週刊誌をちゃんとフォローしてる人には、朝日、やっと今ごろ書いたかという感じになるわけでね。

 そのように、本当はもっとマックレイカーが働かなきゃいけない場面というのが、最近の日本には相当あるにもかかわらず、そこが僕、おくれている一つの面だと思います。


ダフネは、名前を何を意味している

 それで、先ほどの人の質問について言えば、そういうことを含めた事例というのを歴史において学ぶしか、自分をそういうふうな道に持っていく道はないと思っています。

外岡秀俊氏

 外岡 今のお話にちょっと一言つけ加えさせていただきます。

 立花さんが文藝春秋に「田中角栄研究」を発表されて、それからしばらく新聞は書かなかったんですよね、そのことを。ところが、外人記者クラブのその講演を外国のメディアが報じて、それがきっかけになってあの問題が社会問題化するといういきさつをたどったんだと思うんです。

 その当時よく言われていたのは、いや、こんなことは知っていたという、新聞記者はみんな知ってたんだというふうに言った人が我々の先輩にいたといいますが、じゃあ、知ってたんだったらどうして書かなかったのかということを、同時に突きつけられたわけですよね。実は知らなかったんだろうと思います。

 私が言いたいのは、要するに、マックレイカーという言葉でおっしゃいましたけれども、我々が知っていても書かないこと、それから、知っていたふりをして取材してないことが無数にあるんだろうと思います。だから、立花さんが当時おやりになったようなことを、我々はやっぱりやっていかなくちゃいけないなと思います。

 立花 一つつけ加えると、朝日新聞があの金脈問題に関して、こんなでかい紙面を1回つくっているんです。それはいつかというと、検察が処分したその次の日です。


 だから、先ほどの記者クラブの制度の、まさに典型的な例なんですが、当局が何かやると、当局がやったことを背景にしてこんな大きな記事を書く。それ以外の独自の取材で、こんな大きなページをつくるということは、かつては新聞社というのはほとんどやらなかったんです。

 でも、あのころから、しばらくして、やっと独自の取材によって相当大きな紙面をつくるということを、朝日だけじゃなくて、幾つかのメジャーなジャーナリズムが始めるということが、日本ではやっと現れた。その後、それがどんどん発展して、むしろ記者クラブ的なものはやめようという話になっているかというと、全然やっぱりそうはならない。独自取材じゃなくて、当局発表をありがたくちょうだいして、当局はこんな立派なことをやってます的な紙面づくりのほうが、依然として主流だ。それは日本のジャーナリズムの最も危ういというかマイナスの面だろうと、僕は思っております。



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